どーもヤマジです。
今回は、標準ドイツ語(Standarddeutsch/Hochdeutsch)のRの発音の仕方とどうしても発音できない場合の対処法について、ドイツで言語学を修了し、今年で在独歴8年を迎える私個人の経験を踏まえてご説明します。尚、ここから先この記事では発音としてのRは/r/と表記します。
そもそも、その/r/本当に必要ですか?
恐らく、誤解している方も結構おられるかと思うので最初にハッキリさせておきたいんですが、うがいのガラガラ音のようなドイツ語の/r/は、Rが書いてあったら絶対に発音するものじゃあないんです。
また、巷ではよく「ドイツ語は結構カタカナ読み/ローマ字読みで大丈夫!」みたいなのも聞きます。確かにそうっちゃそうなんですが、/r/に関してはそうした情報も綺麗さっぱり忘れましょう。和独辞書などにに書いてあるカタカナ表記も全て真に受けてはダメです。特に/r/に関して言えば、アレをそのまま覚えるとネイティブに全然通じない発音を身につけることになってしまいます。
ドイツ語の単語では綴り上、Rが入っていても、/r/の後ろに母音が続かない場合は、日本語の[ア]のように発音されます(標準ドイツ語では)。メッチャ簡単です。
いつくか例を見ていきましょう:
- Arbeit [アァバイト]
- Frankfurt [フランクフアト]
- Bier [ビィア]
➊は日本人なら絶対に知ってる単語、そうアルバイト通称バイト、の元ネタです。見て分かる通り、/r/の後ろに母音はなく、子音の/b/が鎮座ましましているので[ァ]と発音されます。因みにドイツ語のArbeit [アァバイト]はバイトじゃなくて、ガチの仕事ですのでお間違いなく。日本語のバイトは、ドイツ語では”Minijob”とか”Teilzeitarbeit”です。
➋はドイツ屈指の経済都市、フランクフルトですね。”Frankfurt”の中にある一個目の/r/は、その後に母音の/a/が続くのでこちらはゴリッゴリのドイツ語の/r/で発音されます。一方、二個目の/r/は、その後が母音ではなく子音の/t/なので[ア]と発音とされます。
➌はドイツ人っつったらこれだるぉ!?みんな大好きビール!!ですね。しかし、ドイツでビールを注文したくて「アイン ビール ビッテ!」って元気よく頼んでも、大体通じないのでちゃんと「アイン ビィア ビッテ!」と言ってあげましょう。もう解説なくてもお気づきでしょうが、/r/が語末に来てるので、当然母音があるわけもなく、したがって[ア]となっています。
以上がRが綴り内にあっても、ドイツ語の/r/を使わない時の例です。このルールを守るだけで大分ドイツ語っぽく聞こえますので、是非ご活用ください。
/r/の後ろに母音がない場合、日本語の[ア]のように発音される
これは言い換えると
- /r/の後ろに子音が続く場合
- /r/が語末にある場合
のどちらかのケースです。
例
Arbeit [アァバイト]
☝/r/に子音の/b/が続いている
Bier [ビィア]
☝/r/が語末
標準ドイツ語の/r/の発音方法
いよいよやって参りました標準ドイツ語の/r/の発音の仕方です。
先に言っちゃいますが、ぶっちゃけ英語の/r/よりもムズイです。が!どうしてもできないときの抜け道を次の章で解説するので、この段階でもうギブってせっかちさんはそっちを見てください。
さて標準ドイツ語の/r/ですが、これは舌の奥の部分を口蓋垂(aka.ノドチンコ)に近づけつつブルブル震わせて、発音の際に口から抜けていく息を軽く邪魔してやることで発音できる音です。
どこがどうなってん!って突っ込まれそうなので、パワポでせっせと図をこしらえまた。とりあえずこちらをご覧ください☟

標準ドイツ語/r/を発音する瞬間の断面図
これです。私が言いたかったのは。緑のターゲットアイコンの箇所は口内の気流の流れが調節され、音が作り出されるところなので、『調音点(ちょうおんてん)』/『調音部位(ちょうおんぶい)』などと呼ばれています。
実際の音は、喉にタンがつまってむせる時に出す音や誰かに首を絞められて「カハッ」ってなった時の「ハ」の音の感じに近いです(笑) あとは、口に水を含まない状態でうがいした時の音とかでしょうか。
音声学では、このドイツ語独特の/r/を発音する際に使用する、音の調節方法(『調音(方)法』)を摩擦音/ 接近音 と呼びます。
また、ここが大事なポイントなのですが、ドイツ語の/r/を発音するときは、後舌と上あごの間には常に隙間ができている状態です。

後舌と上あごの間に隙間がある
聞きなれてない人からすると、ドイツ語の発音で/ra/ /ri/ /ru/ /re/ /ro/と言った場合は、調音部位の近さから日本語の「ガギグゲゴ」(/ga/ /gi/ /gu/ /ge/ /go/)のように聞こえるかもしれません。ただ「ガギグゲゴ」の/g/の調音部位は、実際にはドイツ語の/r/よりちょっと前です☟

/g/を発音する瞬間の断面図
ドイツ語の/r/と日本語の/g/は調音部位こそ近いですが、『調音(方)法』、すなわち気流の調整法が異なります。/g/は、舌の腹の部分を上あごにくっつけ、一度完全に気流をストップさせて(タメを作って)、その後間髪入れずに一機に開放することで生じている音『破裂音』です。ゲームのタメ攻撃(弱)みたいなカンジですね。
図を見ると分かりますが、発声の最初から最後まで舌と上あごの間に隙間があるドイツ語の/r/と違い、/g/では隙間がありません。
上述した通り、日本語の/g/の音とドイツ語の/r/は結構近い位置にあるので、この/g/を応用してドイツ語/r/の練習してみたいと思います。

- 「が」を言ってみて、後舌(舌の奥の部分)が『/g/の発音』のイラストのように上あごに触れているのを確認します。
- 「が」を言った時よりも、後舌を若干後ろに引き、その位置で今度は上あごに当たらないように「が」を言うと、ドイツ語の/ra/になります。(『標準ドイツ語の/r/』のイラストを見ながらやってみてください)
先ほどドイツ語の/r/の調音法(音の調節方法)は 摩擦音/ 接近音 と説明しましたが、この他にもう一つあるので、実際は合計で三種類の/r/が存在しています。
しかし、深追いしすぎると世界を憎んでしまう人も現れそうなので、この記事では一番使用頻度の高い 摩擦音/ 接近音 の/r/のみを扱っています。我々が/r/をのぞくとき、/r/もまたこちらをのぞいているのです。深淵をのぞきたい強者は、【ドイツ語発音】標準ドイツ語の3つの/r/からどうぞ・・・。
摩擦音と接近音の/r/の違いは、発音の際に開けておく後舌とノドチンコの隙間の間隔の違いです。
摩擦音の/r/
後舌とノドチンコの隙間の間隔が、接近音の/r/より狭いです。音的には摩擦音の/r/の方が濁っていて、率直に言うと汚ねぇ音です。音声付きのドイツ語辞書で聞ける/r/や、語学学校でネイティブの先生がしっかり/r/を発音したときは、大体この摩擦音の/r/です。
接近音の/r/
後舌とノドチンコの隙間の間隔が、摩擦音の/r/より広めです。接近音の/r/はどちらかというとマイルドな響きで、摩擦音の/r/と比べるとそれほど濁った感じはしません。接近音の方は会話とかでよく聞くタイプで、そこまで喉をガラガラやるずに発音できるので、個人的にはこっちの方が言いやすくてオススメです。
無理なら諦めて巻き舌の/r/を使っちゃおう
もう見出しの通りデス。無理なら潔く諦めて、巻き舌の/r/を使っちまいましょう!
何となく反則っぽい気がしないでもないですが、言語は所詮コミュニケーションツールです。意地張って、ヘタクソな/r/を頑張って使っても分かってもらえなければ意味がありません。それだったら巻き舌の/r/を多用してサクサク話したい事話せた方がいいですよね。
またドイツはアメリカほどではないものの、多民族国家でアクセントやなまりもたくさんあります。特にイタリア系、スペイン系、ロシアやポーランドなどのスラヴ系の人達は、ほぼネイティブレベルのドイツ語を喋っていても、標準ドイツ語の口蓋垂の/r/ではなく、巻き舌の/r/を使っていることが結構あります。そして、巻き舌の/r/ならほぼ100%伝わります。
私の知り合いでも、生まれも育ちもドイツだけど、両親がロシア系なので、/r/は巻き舌という人がいます。またバイエルン州やオーストリアでも巻き舌の人はいるので、ネイティブでも使う人たちがいるということです。オクスルコトハナイ!
ただRammsteinのヴォーカルやヒトラーはビジネス巻き舌っぽいすね。RammsteinのヴォーカリストのTill Lindemannさんはインタビュー動画などでは普通の標準ドイツ語の/r/を使っています。ヒトラーはオーストリア出身なので、普段も巻き舌だったかもですが、演説での荒ぶる巻き舌っぷりは相当誇張して話してる感じに聞こえます。
少し話がズレましたが、言いたいのは、ドイツで日本人が上手くやっていくには巻き舌を駆使した方が断然ラクってことです。日本語の/r/の発音は文脈なしだと、ほぼ分かってもらえませんので。
私はドイツに住んで現在8年目(2020年現在)で、発音に関してはそこそこ自信があるのですが、個人的に語頭の/r/は語中の/r/よりも言い辛く、少々気合いが要ります。みなさんはどうでしょう?ちょっとどっちが難しいか試してみてください。
語頭の/r/: “rechts”,”Rechnung”,”Rot” etc.
語中の/r/: “fahren”,”Lehrer”,”Änderung” etc.
なので、早く何か説明しないといけない時は、語頭の/r/だけは巻き舌にして、それ以外は標準ドイツ語の/r/を使うことにしています。2年程前から、この二つの/r/を組み合わせることで、話すのが大分楽になりました。
発音結構自信あるけど、気を抜くとたまに日本語の/r/がひょっこり現れるって方は、是非この合わせ技を使ってみてください。
- 標準ドイツ語の/r/が全然できないときは巻き舌の/r/をガッツリ使う
- 標準ドイツ語の/r/に大分慣れている人も、言いづらい箇所だけ巻き舌にしてみると結構楽になる
- 間違っても日本語の/r/は使わない→基本伝わらない
ドイツ語の発音で一番の鬼門は、この/r/の発音だと思うので少しでもお役に立てたら幸いです。逆を言えば、これで/r/さえクリアしてしまえば、他のドイツ語の発音はラクショーです。
- /r/の後ろが母音ではないなら[ア]と発音する
- ドイツ語の/r/を使う時は、後舌と口蓋垂(ノドチンコ)を近づけ僅かに隙間を開けた状態で、喉の奥から出て来る気流を振動させながら発声する☞標準ドイツ語の/r/の練習方法
- ドイツ語の/r/が全然できない時、どうしても言いづらい単語や部分がある時は、巻き舌を使う。
の3点です。
ドイツ語の/r/もできないし、巻き舌もできないって方・・・そいつぁもうどうしようもないです!➋の練習方法を繰り返して標準ドイツ語の/r/をマスターしましょう!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
本編はここで終わりですが、さらに☟に/r/に関する「おまけ」コラムがあります。
ここから先は、「/r/の情報もっとくれよぉ、くれよぉ!」という何年か前の自分のような人向けに書いた若干マニアックな情報ですが、興味がある方は是非ご一読ください。
日本語と英語の/r/
日本語と英語の/r/は、『調音部位(音が作り出される場所)』は同じですが、『調音方法(音を作る方法)』は異なります。
一般的な英語の/r/は日本語の/r/と違い、舌先を歯茎と近づけて隙間を開けておくので調音法は『接近音』です。日本語の/r/は舌先を歯茎とくっつけたあと弾いて音を出すので『はじき音』と呼ばれています。
英語とドイツ語の/r/
英語とドイツ語の/r/は、調音部位こそ違いますが、調音方法は両言語で『接近音』が用いられます。そう、/r/が作り出される時、ドイツ語でも英語でも舌によって口内が閉鎖されず、常に隙間がある状態で口内の気流が振動させられるのです。
日本語とドイツ語の/r/
日本語とドイツ語の/r/は調音部位も違えば、調音方法も異なります。日本語は調音部位が『歯茎』、調音法が『はじき音』であるのに対し、ドイツ語の/r/では調音部位『口蓋垂』、調音法『接近音』となっておりこの二者だけ全く共通点がないのです。この事がドイツ語の/r/を日本人が習得し辛い要因の一つとなっているのではないでしょうか。
御託がウルセェっすね!またパワポで図をこしらえました↓
図のように、日本語と英語の/r/は音が調整される場所、つまり調音部位が『歯茎』で、英語とドイツ語の/r/は音を作る方法、調音法が両方とも『接近音』で舌と上あごに隙間ができるという感じに共通点があることが分かります。
見やすいように共通部分を点線で結んでみたのですが、ご覧の通り日本語とドイツ語の/r/は全く繋がらないのです。これはつまり日本語と標準ドイツ語の/r/は全く共通点がないということです。
これが日本語の/r/がドイツ人には伝わりにくく、また日本人もなかなかドイツ語の/r/を認識できない理由かと思います。
以上のような相違点・共通点がこれら3つの言語の/r/にはありますので、こちらの図も参考にしながら、視覚的にも/r/の発音の学習に役立てて頂けると嬉しいです。
参考
Radices Back to the roots: r-Laute: geRollt, geschnaRRt, vokalisieRt (ドイツ語)