どーもヤマジです。
以前書いた記事【ドイツ語発音】Rの発音方法の図解説明とできない時の対処法では一般的な標準ドイツ語の/r/の発音法とそれができないときの対処法を扱ったのですが、今回の記事では標準ドイツ語/r/をよりディープに深く考察していきます。頭痛が痛いですね。
標準ドイツ語には3つの異なる/r/がある
そう、標準ドイツ語(Standarddeutsch/Hochdeutsch)には/r/と一口に言っても、実は3つあるんです。ただ、これら3つは音のヴァリエーションであり、どれを使っても正しく、ことばの意味が変わってしまうということはありませんし、ぶっちゃけ理解したところで実用性はほぼ皆無ですが、面白いじゃないですか。分類するの。まぁ、ある種の教養だと思ってお読みください。
では、まず標準ドイツが/r/の音がどう作り出されているのかを見ていきましょう。
標準ドイツ語/r/は、喉を通って出て来る肺気流が舌の根本と口蓋垂(俗にいうノドチンコ)の間で調節されて発生する音です:
気流が調節されて音が作り出される場所『調音部位』が、「口蓋垂(ノドチンコ)」であることは3つの/r/全てに共通しています。
ではこれらは何が違うのか?それは、ズバリ舌と口蓋垂の間にある隙間の大きさの違いです:

標準ドイツ語の3つの/r/を並べた図
上の図が示すように、隙間の間隔の違いによって、「接近音の[ʁ̞]」、「摩擦音の[ʁ]」、そして「ふるえ音の[ʀ]」と変化します。
以降の章では、これらの細かい違いを考察していきます。
接近音の[ʁ̞]と摩擦音の[ʁ]

接近音の[ʁ̞]と摩擦音の[ʁ]
摩擦音の[ʁ]は、語学学校の先生が手本として発音してくれる/r/や音声付の電子辞書で聞ける/r/です。したがって3つの内でも最も一般的・代表的なドイツ語の/r/といったところでしょうか。
摩擦という名前の通り、何かが擦れた感じの濁った音・水なしでうがいをするような音がするので、これ単体で聞くと正直あまり綺麗な音ではありませんし、初めて耳にする人には/g/のような音に聞こえるかもしれません。尚、/g/を通じて摩擦音の[ʁ]を練習する方法をこちらの記事で紹介していますので、興味があれば読んでみてください。
一方で、接近音の[ʁ̞]ですが、注意深く聞かないと摩擦音の[ʁ]とあまり違いが分かりません(非常に近い音なので記号も酷似しています)。敢えて、表すなら摩擦音の[ʁ]をもう少し柔らかくしたマイルドな音・やさしくうがいをした音(笑)って感じでしょうか。摩擦音よりも隙間の間隔が広い、つまりそこまで舌の根本あたりを緊張させなくてもいいので、個人的にはこの/r/が3つの中で一番難易度が低いと思います。普通のスピードで会話をしているときとかによく使われる標準ドイツ語の/r/って感じです。もちろん個人差はあるでしょうが。
ふるえ音の[ʀ]
お待ちかね、ふるえ音の[ʀ]です。
こいつに至っては、ある程度ドイツ語に慣れている人が聞けば、他2つとの違いがハッキリ分かるかと思います。そのぐらい響きに特徴があります。
↑で比べた通り、3つの中では隙間が最も狭いのですが、ただ狭いだけではないのです。ぶるぶる震わしながら発音するので難易度が鬼のように高いです。
ふるえ音ってなんやねん!って思われるかもしれませんが、実は日本人にも馴染み深いふるえ音があります。そう、いわゆる「巻き舌のR」、ヤクザ映画なんかでもよく使われる、ガラの悪い/r/です。一般に知られている巻き舌の/r/は、舌先を歯茎あたりでぶるぶる震わせて発音しますよね?あの巻き舌の/r/を舌先ではなく舌の根本で、しかも口蓋垂(俗:ノドチンコ)付近でやるんです。もうムリゲーです。
ドイツの大学に在籍していたころ、音声学の授業でもこのふるえ音の[ʀ]を実際にクラスの学生みんなでやってみましたが、30人以上いた中でも綺麗に発音できたのは一人だけでした。当然、私以外はほとんどネイティブでしたが、それでもこの割合です。
ネイティブでもできる人が限られるふるえ音の[ʀ]は、ラジオとかニュースとかで聞くことがあります。声のプロってすげぇってなります。
そもそも日常的に使われているのは、摩擦音と接近音ですので、ふるえ音の[ʀ]は、ガチで/r/を極めようとする猛者以外は、あまり必要ないかもしれません。
音素と音価と異音の関係性
特に説明もなく使っていましたが、発音を表す際に使用される / / という記号は、ざっくりとした音のまとまりを示すもので、これは『音素』と呼ばれています。そして [ ] として表記された場合は、実際に発音された音素をさらに細かく分類したときに示すもので、『音価』と呼ばれています。つまり、標準ドイツ語の/r/という音素には、[ʁ̞],[ʁ],[ʀ]の3つの音価が属しているということです。そして共通の音素に属している音価同士は『異音』と表されます。異音は、したがって音価のヴァリエーションみたいな感じですね:

標準ドイツ語の音素/r/とその音価の相関図
- 標準ドイツ語には3つの/r/があるが、これら3つは全て口蓋垂(俗:ノドチンコ)で作り出される音である
- 標準ドイツ語の3つ/r/の最大の違いは舌の根本と口蓋垂の隙間の大きさであり、その間隔の違いによって「接近音の[ʁ̞]」「摩擦音の[ʁ]」「ふるえ音の[ʀ]」に変化する。また筆者の個人的な感覚から言うと、間隔が狭くなるほど難易度が高くなる
以上が標準ドイツ語の3つの/r/でした。
ドイツではこれら以外の「ふるえ音の[r](俗:巻き舌のR、ヤクザのR)」や「接近音の[ɹ](俗:英語のR)」は使っても通じます。しかし、日本語の「はじき音の[ɾ]」だけは、基本的にドイツでは/r/として認識されませんので、ご注意ください。
それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考
Radices Back to the roots: r-Laute: geRollt, geschnaRRt, vokalisieRt (ドイツ語)